狩野ハスミ 『連結方式』
●出版 ティーアイネット

●定価 1048円(税別)
●乳シズム ★★
●推奨ランク SAB
●フェチ嗜好 乳首いじり・パイズリ
 

 
REVIEW
連結方式

 2005年4月発売。
 狩野ハスミ氏4冊目の単行本。
 『連結方式』は、快感の物語ではない。
 処女作『D』から見ると、進化と後退の一冊である。それは映像的・ストーリー的進化であり、ポルノ的後退である。その進化と後退が特に表われているのが、300頁近い分厚い原稿のほとんどを占める長編「VISION」だ。この一冊を楽しめるかどうかは、「VISION」の物語を、その反則的な、特異なストーリーを味わえるかにかかっている。
 細密な、美麗な線画と丁寧なトーンワーク。画力を駆使したアングル。豊満な乳房は充分にエロい。数が豊富なわけではないけれど、乳首もいじられているし、パイズリもある。
 だが、そこに性的フェティシズムはない。セックスは横溢しているが、巨乳へのフェティシズムは薫ってこない。
 「VISION」で描かれる女体は、非常に透明な身体である。いくら乳房を揉まれようと、乳首をいじめられようと、そこに女性の快感や男性の官能的妄想を感じることはできない。
 『連結方式』の特徴となっているのは、男性という実体の欠落、男性という欲望の不在だ。主人公の男性の中に、根源的な射精の欲望は埋め込まれていない。男性主人公は、犯される女性の反射として存在しているだけであり、実体のない記号にすぎない。
 「VISION」の主人公は、目の前の女性への欲望が高じて犯すのではない。生理的欲求からではなく、ストーリーの要請によってヒロインを犯すのだ。つまり、男性の欲望も、そして女性の肉体自身も、男性的快感に還元不可能な形で観念化され、抽象化されているのである。
 さらにコマ数が男性的エロスとフェティシズムを脱臼している。通常のエロ漫画が多くても1頁6コマ程度でおさめるものを、『連結方式』は1頁に8コマも使用している。そのために、頻繁にさしはさまれるケータイの液晶画面より小さなコマが、フェティシズムを寸断しているのだ。
 「VISION」の焦点は、男性の快感にも、女性の快感にも向かっていない。女体はエロく描かれ、ペニスはリアルすぎるまでに描き込まれているが、そこにペニスはない。
 「VISION」の焦点はただ一点のみ――エディプスという三角形に向かっている。ただし、この場合のエディプスは、「父−母−息子」ではなく、その変形バージョン「父−娘−彼氏」だ。
エロ漫画にとってペニスとは、快感の装置であり、快感のテーマ的存在だが、『連結方式』の場合、ペニスは快感の装置でも快感のテーマ的存在でもない。『連結方式』のペニスは、生身のペニス、射精するペニス、快感のペニスではなく、抽象的父権としてのファロスなのだ。
 ポルノとは、快感を主題にした物語である。男性の射精的快感が主題になっている場合もあれば、女性の快感が主題になっている場合もある。陵辱されながら己の肉体に目覚めていく物語は、その後者に位置づけることができるだろう。巨乳フェティシズムの物語は前者に位置づけることができる。
 だが、『連結方式』は、そのどちらにも属さない。『連結方式』は快感を描いていないし、快感を主題にもしていないのだ。
 したがって、『連結方式』は、エロ漫画ではない。セックスと巨乳とにコーティングされているが、『連結方式』は、アンチエロの物語である。形式こそエロ漫画だが、そこにポルノの条件である快感は書き込まれていない。代わりに書き込まれているのは、エディプスの三角形であり、そのエディプス三角形の鍵としてのファロスからの解放である。いわば、ファロスからの解放という物語がエロ漫画の形式を借りて表現されているだけである。男性という生理の形を借りながら、男性という生理を切り捨てた地平面で『連結方式』は存在しているのだ。
 連結方式
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